こんにちは。myukeです。
本記事では、国内スタートアップにて創業期からCTOを4年ほど務めており、現在はCTO業と並行してReminusの一員としてスタートアップ支援に関わる筆者の経験を踏まえ、日本のスタートアップにおけるCTO代行の必要性について解説していきます。
CTO代行に対する経営者の懸念
Reminusでは主にスタートアップの技術組織に向けて「CTO代行」と呼ばれるサービスを提供しています。しかし、多くの経営者が最初に抱くのは「なぜフルタイムの専任CTOではなく、"代行"なのか?」という疑問でしょう。
CTOは技術組織の最高責任者であり、プロダクトの技術的方向性を決める重要なポジションです。そんな重要な役割を「代行」という形で外部に委ねることに、不安を感じるのは当然です。
「本当はフルタイムの専任CTOが欲しいのに、なぜ外部の人に頼むのか?」
この疑問に対する答えを、日本のスタートアップが置かれている現実から紐解いていきたいと思います。
日本のスタートアップが置かれた現実
日本のスタートアップにおける傾向を2つの観点から分析すると、
事業の立ち上げ初期からシニアレベルのエンジニアの雇用は必ずしも必要ではない
シニアエンジニア目線でも、初期スタートアップにジョインするメリットが小さい
という重要な現実が見えてきます。
1つ目:技術よりもドメイン知識が重要
日本のスタートアップを見渡すと、「技術特化型」の起業よりも、「ドメイン特化型」での起業が圧倒的に多いことが分かります(※これらの単語はこの場の説明のために私が発案したものです)。
技術特化型とは、NotionやDiscord、ChatGPTのように、革新的な技術を中心として汎用的なニーズを掴み、国境すら突き抜けていくタイプの起業です。一方、ドメイン特化型とは、不動産情報サイトや飲食店向け注文アプリ、洋服のレンタルサイトなど、特定の業界や領域の課題をテクノロジーで解決するアプローチです。
この2つのタイプでは、求められる技術の種類や水準が根本的に異なります。技術特化型では最先端の技術力が競争優位の源泉となりますが、ドメイン特化型では業界知識や営業力、コンセプトメイキングが成功の鍵を握ることが多いです。
2つ目:タイムマシンモデルの合理性によるメリットの低下
日本市場の特徴として、海外で既に立証されたビジネスモデルを国内に持ち込む「タイムマシンモデル」が有効であることが挙げられます。
このモデルでは、ゼロから技術的なブレイクスルーを生み出す必要がなく、一定レベルのプロダクトを作れば市場に受け入れられる可能性が高いのです。そのため、初期からシニアエンジニアをフルタイムで雇用する必要性は、必ずしも高くありません。
また、タイムマシンモデルを採用することで(大半のケースでは)目指す市場規模が国内に限定されてしまうため、資金調達規模は海外と比べて小さく、通常のCTOに付与される数%未満のSOや株では数年以上のキャリアを投下したことに対するリターンも大きくないのが実情です。
以上の2点から、冒頭に挙げた重要な現実が説明できます。
事業の立ち上げ初期からシニアレベルのエンジニアの雇用は必ずしも必要ではない
→事業ドメインに深く取り組むことが最優先。ハイレベルな技術が必要になるかはその後判断するのが妥当
シニアエンジニア目線でも、初期スタートアップにジョインするメリットが小さい
→日本市場でのExit相場では金銭的リターンが小さい。それに事業観点で技術的なブレイクスルーが不要なら自身のスキルアップにも繋がらない
端的に言えば、国内アーリースタートアップにおいて、シニアエンジニアのフルタイム雇用は難しい上に、そもそも不要なケースが多いといえるのです。
雇用は不要でも、意思決定は必要
しかし、ここで重要な矛盾が生まれます。
「シニアエンジニアのフルタイム雇用は不要」とはいえ、強いエンジニアによる意思決定が全く不要というわけではないのです。
日常的な実装作業や運用業務は、ミドルレベルのエンジニアでも十分に回ります。しかし、以下のような場面では、シニアレベルの判断が不可欠になります:
初期整備の特に重要な箇所:基本的なインフラやセキュリティ、業務ロジックの構築
採用戦略:組織拡大に向けたエンジニア採用の方針決定
中長期的な仕組みづくり:開発プロセスや品質管理体制の構築
適切な妥協点の判断:あえて今こだわる必要のない部分を見定める判断
特に最後の点は重要で、経験の浅いエンジニアほど全てがリスクに見えて不必要にこだわってしまいがちです。いわゆる「早すぎる最適化」、つまり将来起こるかどうか分からない課題に先回りして過剰投資してしまう問題ですね。一方で、経験豊富なシニアエンジニアは、短期で成果を出すためにあえて技術的負債を残す判断を柔軟に行い、ビジネスが伸びた段階で本格投資すればよいとチームに伝えながら合意形成できます。
この「普段は不要だが、重要な分岐点では必須」という状況こそが、CTOをフルタイムで雇用するスキームでは解決しにくい課題なのです。
実際に発生する問題の例
これまで述べてきた課題により、実際にスタートアップで以下のようなパターンに陥っている例を観測してきました。
パターン1:採用要件が高すぎて採用が進まない
元CTO級の人材を求め続けた結果、なかなか採用が決まらず、開発が停滞してしまうケース。
パターン2:妥協した採用で給与だけが高くなる
途中で要件を下げて採用したものの、給料だけは高い設定のまま、期待していたレベルの成果が出せないエンジニアを採用してしまうケース。
パターン3:重要な判断ミスによる致命的な手戻り
ジュニア〜ミドルクラスエンジニアで初期チームを固めた結果、採用や組織設計、技術的分岐点などの「重要な意思決定の瞬間」で判断を誤り、大規模な手戻りや作り直しが発生してしまうケース。
いずれのパターンも、限られた資金と時間というリソースを無駄に消費してしまう結果につながります。
CTO代行が解決する課題
ここまで述べた課題を解決するのが、CTO代行というアプローチです。
※ここからは、筆者である私が現在担当している戦略支援プランを例に話を進めますが、Reminusではお客様のフェーズや課題に応じて複数のプランを提供しており、あくまで一例としてお読みください。
フルタイム雇用を前提としないため、シニアレベルのエンジニアに必要なタイミングで重要な意思決定へ関与してもらえます。固定費を抱えずに済む一方、技術的な重要分岐点で判断を外すリスクを抑えられます。
私が関わる戦略支援の進め方
ジュニア〜ミドルレベルのメンバーで日々の開発を回しつつ、節目の判断だけを外部のCTO経験者に依頼したい、というニーズにフィットするケースが中心です。
普段の開発:社内メンバーで迅速に回し、気になる論点はあらかじめ共有チャネルで蓄積する
重要な判断:技術選定や採用方針などの分岐点が出たタイミングで相談し、論点をトリアージする
意思決定支援:複数の事例を引き合いに、短時間で判断オプションとリスクの見立てを提示する
お客様によってはロードマップ予実管理や採用実務など幅広い意思決定に踏み込む執行支援のプランをご利用いただいており、契約時に課題に応じてプランを検討いただいています。私は現役でフルタイムCTOとして事業にコミットしているため、こうした戦略支援のプランを契約いただいたお客様に好んで関わっています。
意思決定にフォーカスする客観性
ミドル層だけに任せると過剰な技術投資で固定費が膨らむリスクがあります。極端な例では、トラフィックの小さなToB SaaSでも「スケーラビリティを上げよう」と言い出し大規模移行を進め、報酬だけ得て離脱し、過剰な選定だけが残ることもあります。Reminusのシニアは意思決定の質に価値を置くため、目的化した大型施策を無理に作らず、必要な判断に絞り込めます。
必要な時には躊躇なく指摘し、不要な時には「今は必要ありません」と明言する。この客観性こそが、CTO代行の大きな価値の一つであり、採用活動の試行錯誤に時間と労力を割かずともシニアエンジニアの視点を得られる点は、多くの経営者にとって大きな安心材料になります。
このような意思決定ベースの関わり方でスタートアップで価値が出せるのか?と懸念を抱く方も多いと思います。私自身も創業期から泥臭い仕事を多くこなしてきたCTOなので最初は同じ印象でした。しかし今では、「ミッションフィットしたやる気あるメンバーが揃っているのに、最初の技術的意思決定が間違ったまま突っ走ってしまう」リスクを抱えている組織には十分に価値提供できていると自負しています。
双方にとってのメリット
スタートアップ側:
採用にコストや時間(スカウト、面接、スキル判断等々)を掛けずに済む
ミッションフィット、カルチャーフィットを優先してエンジニア組織の立ち上げができる
技術的な重要分岐点で、経験者ベースの判断や知見が得られる
シニア〜VP〜CTO級エンジニア側:
限られた時間の中でも柔軟に関わり、フルタイム拘束されずに骨太な意思決定支援へ集中できる
自分のスキルが最も活きる意思決定フェーズに集中できる
複数の組織に関わることで、俯瞰的な視点と引き出しを増やせる
Reminusには現役SaaSスタートアップのメンバーに加え、専業のフリーランスパートナーも参画しています。
こうしたシニア層にとってもCTO代行は、複数社の重要な意思決定に関わりながら経験を還元できる魅力的な場です。この視点はスタートアップの経営者からは見落とされがちかもしれません。筆者自身も4年以上CTOを務める中で、転職する気はなくても一社に閉じこもると視野が狭まる課題を痛感しており、Reminusのスキームがちょうど良い解を与えてくれると実感しています。
(逆に言えば、この辺のインサイトを抑えておくと現役CTO及びそれに相当する人材を副業に誘い、気がつけばフルタイムジョインしている、といった流れは実現しやすいとも言えます。このあたりの深堀りは機会があれば他の記事で執筆します)
まとめ
初期フェーズのスタートアップは「シニアがフルタイムで腰を据えても報われにくいが、重要局面では経験者の判断を欠かせない」という矛盾を抱えています。本記事では、その背景にある市場規模・事業特性・採用環境を整理し、ギャップを埋める打ち手として、意思決定支援に特化したCTO代行の実例を紹介しました。
重要なのは、「何が何でもエキスパートエンジニアをCTOに迎えなければ」という思い込みではなく、自社のフェーズと課題に最も適した技術組織の作り方を選択することです。
ドメイン特化型で事業を立ち上げ、限られたリソースの中で最大の成果を出したいスタートアップにとって、CTO代行は非常に有効な選択肢となるでしょう。



